長い冬眠から目覚めた一匹の女王蜂。彼女の体内には、新たな王国を築くための希望が宿っています。しかし、その前途は決して平坦ではありません。彼女はまず、たった一匹で、来たるべき帝国の礎となる最初の城を築かなければならないのです。彼女は丹念に場所を選び、軒下の隅や木の枝に、最初の部屋作りを開始します。大顎で木の皮を削り取り、それを自らの唾液と丁寧にこね合わせ、ペースト状の建材を作り出します。そして、それを塗り固め、最初の小さな六角形の部屋、育房を完成させます。そこに最初の卵を産み付けると、彼女の孤独な戦いは次の段階へ移行します。卵が孵化し、か弱い幼虫になると、彼女は狩りに出て餌を与え、外敵から守り、たった一匹で子育ての全てをこなします。この期間、巣の成長はごくわずかです。しかし、やがてその幼虫が蛹となり、最初の働き蜂として羽化した瞬間、王国の歴史は劇的に動き始めます。妹たちが生まれたことで、女王は産卵という最も重要な任務に専念できるようになります。最初の娘たちである働き蜂は、すぐさま巣の拡張作業に取り掛かります。ある者は巣材を集め、ある者は新たな育房を作り、またある者は妹たちのために餌を運びます。この時から、巣の成長は一日単位で目に見えるようになります。昨日よりも育房の数が数十個増え、巣の外壁が数センチ伸びる。その成長は、まるで生命体そのものが呼吸し、拡大していくかのようです。女王蜂一匹の孤独な努力から始まった小さな揺りかごは、無数の働き蜂たちの組織的な労働によって、わずか数ヶ月で数千の命を抱える巨大な帝国へと変貌を遂げるのです。